2:学校における福祉教育の展開

「佐世保バーチャルカレッジ」を通じて行う福祉教育の実践報告

 はじめに

 本発表は、小学校と大学をインターネットで結び、そこの小学生156名と大学の教員と福祉ボランティアの学生の相互の交流を通じて、小学生が「福祉」について学習する機会をつくりだすために行った実践報告である。
この機会の母体となる活動は、「佐世保バーチャルカレッジ」と呼ばれる、「環境」と「福祉」を学習のテーマとした、佐世保市の協賛のもと、総合的な学習の時間に対応させたところの小学生教育である。
 はじめに、小学校と大学の相談により小学生に相応しい福祉学習のテーマを決め、小学校の授業のなかで小学校教員がテーマに合わせた「事前と事後の学習」を行う。

 そして、福祉学習のテーマに合わせてインターネットを用いた「バーチャル体験」を通して、その学習を深める授業計画である。この一連の学習計画のなかに、大学側としてかかわり、小学生や小学校教員の方々との学習交流を通して、いわゆる「福祉教育」の方法についての反省や成果があったと思われることがらを実践報告として発表する。実践において注意した点は、「いかにして福祉のテーマを学年齢に対応させ学習させるか・また小学生が学習できるか」、「小学校3年・6年・中学へと、継続的で一貫性をもたせた福祉教育とするための導入足りえるか」などである。

 福祉の学習テーマは「バリアフリー」を題材として行うこととした。その理由は、「貧困、障害」の問題をテーマとするには、小学生の知識不足から正確なる理解が得られるか疑念があり、また、虐待、暴力、拒否などの事件問題をテーマとするのも相応しくないとの意見交換から、「われわれの身近なところで見られる段差の解消」といったバリアフリーを中心テーマでもってくることで、福祉ボランティアの気持ちを育てる芽をつくったり、将来の福祉教育の素地となる「視点」を学習できるのではないかという仮説に基づいて展開した。
 

実践の方法

 本実践の基本的な考え方として、住んでいる環境のまったく違う場所や環境の人間同士が、仮想的なITの環境のなかで、出会い対話し、学習成果を見出すところにある。
 そこで、実践の方法は、インターネットで、小学生の教室と障害者のセンターと大学を結んで音声と画面とメイルを用いて、相互に情報交換を行うことを中心にすえた。
 主な内容は、日時を決め、1時間30分間の小学校の授業として行う。このバーチャル体験の開催の日のために、小学校では、子どもたちに事前教育が行われ、大学では、小学生に理解できる福祉教育について事前学習をすすめる。そして、バーチャル体験の終了後に、子どもへのアンケートを実施し、小学校教師と大学教師と障害者のボランティアの方とで「振り返り討論会議」を開く。
 授業計画の中身は、長崎県佐世保市立早岐小学3年生85名、長崎県波佐見町立波佐見小学3年生71名とそれぞれの小学校担任の先生9名と、大学教員2名と学生ボランティア5名により、相互対話の形で行った。設定は、大学教員と学生ボランティアは「バリアフリー探検隊」として、長崎国際大学内のバリアフリーを探して歩き、それを、小学生が、インターネットで結んだそれぞれ2校のなかに設定された大画面をみて、質問や話し合いを行う。「探検隊」の2名が、妊婦と片足を骨折してギプスを巻いているという設定で、「階段の昇り降りが大変である」とか、「通常のトイレが狭くて車椅子で入れない」、「バリアフリー機能のあるトイレなら上手く利用できた」「車椅子のボランティアがカメラを持ち、車椅子の視点からみた建物やバスの運行」などの様子をリアルタイムで小学校へ配信した。2校の小学校同士もお互いに意見交換できるように設定し、それぞれ小学校2校と大学の3者のやり取りが聞け、対話に入れるようになっている。

実践結果

 インターネットの速さや、音声の的確さなど、周辺機器の力量や使用するわれわれの不慣れな点がみられたものの、時間内に予定の学習内容を展開することはできた。特殊な高級機器でなく、汎用型のパソコンで行うことにこだわったのは、この福祉教育・学習実践が日本のどの地域でもできることを示しておきたかったというねらいもある。

「福祉教育」とインターネット活用という「情報教育」の両面から、子どもにとっては、楽しく興味がわく授業が展開できるものと考えていた通り、アンケートの結果から、子どもたちには、コンピュータの画面を用いてリアルタイムで学習できることへの興味は高いものであった。

機器や未知の人との対話といった興味を抱くテーマを通じて、そこから、内容を深めて学習させる、という方法をとるため、「福祉」という「人権」や「障害」や「暮らし」や「生活環境」といった、ばらばらであるが、一つにくくれるような擬似体験が、子どもの生活経験を広げ、人間的視野を広げる効果が見られるのではと考えられた。
そのためにも、小学生の学習成果が、どういう点で優れており、どういう点で不足がみられたかについて測定するための、アンケートを事後学習の一つとして行った。
結果内容は次の通りである
小学校2校の3年生156名のアンケートで記された自由記述について、KJ法を用いて整理した。資料1 アンケート結果
自由記述では次のように、
1、「身近なところにバリアフリーはあることがわかった」
2、「階段を昇れない人がいることを知った」
3、「人助けができると思った」
の3カテゴリーに分けられた。
1では、家のなかの手すりもバリアフリーのひとつなのだ、とか鏡がなぜ低い位置にあるのかと不思議に思っていたことの意味がわかったなど、日常生活のなかで、町や家で子どもたちは目にはしていたけれど、その意味がわからなかったことがここでつながった様子が述べられるなど、意見群があった。
2、では、階段にしても坂道にしても、それを自由に行き来できない人がいる、町にはたくさんそういう人がいることを知ったという驚きの意見群があった。
3、では、自分は人に優しくしたい、とか、工夫次第で人を助けることができるのだと思ったなど子どもの気持ちが積極的に動いたのだという意見群があった。
以上のことから、分析すると、学習対象の小学生は、まずバリアフリーについて知り、それを利用する機会と利用者の状況を知り、さらに自分も助けたいという情動が発生していることが小学生の自由記述をカテゴライズすることで分析できた。資料2 授業風景

資料1
アンケート結果

コンピュータのがめんについてききます。

1:コンピュータの画面はよくみえましたか

1)よくみえた
2)まあまあみえた
3)あまりみえなかった
4)みえなかった
 
1
2
3
4
48
83
24
1
53%
31%
15%
1%

2:こえはきこえましたか 

1)よくきこえた
2)まあまあきこえた
3)あまりきこえなかった
4)きこえなかった 
 
1
2
3
4
42
78
35
1
50%
27%
22%
1%
 

3:だいがくのたんけんたいのはなしはわかりましたか 

1)よくわかった
2)まあまあわかった
3)あまりわからなかった
4)わからなっかた 
1
2
3
4
56
64
35
1
36%
41%
22%
1%

4:もう1つ小学校のはなしはきこえましたか 

1)よくきこえた
2)まあまあきこえた
3)あまりきこえなかった
4)きこえなかった
 
1
2
3
4
38
85
31
2
24%
55%
20%
1%

じゅぎょうについてききます。 

1:バリアフリーについて 

1)よくわかった
2)まあまあわかった
3)あまりわからなかった
4)わからなかった
 
1
2
3
4
52
61
31
12
33%
39%
20%
8%

2:くるまいすについて 

1)よくわかった
2)まあまあわかった
3)あまりわからなかった
4)わからなかった 
 
1
2
3
4
53
77
25
1
34%
49%
16%
1%

3:スロープについて

1)よくわかった
2)まあまあわかった
3)あまりわからなかった
4)わからなかった 
 
1
2
3
4
66
71
18
1
42%
45%
12%
1%

4:くるまいすの絵のプリントは書けましたか 

1)よく書けた
2)まあまあ書けた
3)あまり書けなかった
4)書けなかった
 
1
2
3
4
71
61
22
2
46%
39%
14%
1%

3、バリアフリーのばしょは近くにありましたか。 そのばしょをいくでもいいのでかいてください。
・点字・・・デパートのエレベーター
      デパート等の公衆 電話
      家の洗濯機
      病院
      病院の自動販売機
・点字ブロック
      横断歩道
      歩道
      九十九島遊覧船の床
      書店駐車場
      東部住民センター駐車場
・スロープ
      駅
      ファミリーレストラン
パールシー
      住民センター
      デパート
      公衆トイレ
      バス 電動スロープのマーク
・手すり
      学校の階段
      家の階段
      風呂
      いとこの家
・障害者用のトイレ
      スーパー
      公園
・音の出る信号機
・スーパーなどの自動ドア
・エレベーターの車椅子用のボタン
・手洗い場が低くなっている
高速道路のパーキング

資料2
授業風景
オープニング

司会「我々はバリアフリー探検隊です。これから大学内のバリアフリーの場所を探していきます。みなさん画面はよく見えていますか?」
小学生「はーい」
司会「隊員を紹介します。こちらのおねえさんはお腹に赤ちゃんがいる役です。妊婦といいます。こちらは足をけがされています。」
司会「どんなときに困りますか?」
隊員「階段の昇り降りなんか大変ですね」

実際に段を登って困っていることを確認する。

車椅子の説明

司会「こんなときに役に立つのが車椅子です」

車椅子について名称、扱い方の説明を行う。

でも車椅子では階段は昇れません。スロープというバリアフリーがありますから使ってみましょう。

隊員「妊娠していると足もとが見えなくて歩くのもこわいんですよ」

小学生「へーぇ」「知らなかった」

スロープ体験

隊員「このようなスロープがあると助かりますね」
司会「ではプリントを見てスロープと記入してください。」

小学生「スロープを車イスでのぼるのはどんな感じですか」、「自分1人では車イスでのぼれますか」

隊員「坂がゆるやかだからこわくないよ。でも自分の力ではのぼれないよ」

車椅子の視点を疑似体験

ちょうど道路をバスが通過

隊員「車椅子からバスを見ると、すごく大きく見えて怖かった。」「みんなも見えました?」

小学生「みえました」「道のでこぼこがあるのがよくわかりました」

トイレ

隊員「このように車椅子で、一人で利用できるようになっています。」

実際に水を流すなど行ってみる。

小学生「図書館やスーパーで見たことあります。これもバリアフリーだとは知らなかった」

隊員「他にも町のなかにあると思うから先生と話し合ってみようね」

エレベーター

隊員「エレベーターにも車椅子一人で乗れるようになっているよ。これは、小さな人でも乗れるようになっているから両方に便利だし必要だね」「エレベーターがないと2階3階へ行くのも大変だから」

小学生「そんなに低いところにボタンがあるとは気づかなかった。」

小学生用バリアフリー学習プリント

司会「車椅子やスロープに名前を書き込められましたか。」
小学生「はーい」
司会「ではどんなときに使うのか考えてみて下さい」

作業

司会「3の町のどこにバリアフリーがあるかこれからの様子で先生と話してみてください。」
小学生「はーい」

各小学校からの質問や意見に対応

小学生からの質問例

1:妊婦さんが坂道を昇るのが大変だとは知らなかった。どうでしたか。

2:足をけがした人を見た時に手伝いしたいと思ったが車椅子はどこにあるのか。

3:小学校の教室は2階3階に行くエレベーターがないけど、けがをした時には困るけどどうすればよいか。

コンピュータに表示された各小学校の様子

大学・小学校2校の3画面が同時に表示され子どもたちは情報機器への興味も手伝って、テーマであるバリアフリーについて引き込まれて学んでいった。手をふる子、自分が映って照れる子ども達など、リアルタイム学習の良い点がここではみられた。

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